MESSAGE from 星川淳

(作家・翻訳家/一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト理事長)

 

ダムが建設される場所は、聖域と呼んでもいいくらい瑞々しい自然が息づいている。動植物だけでなく、古くからのヒトの営みが刻まれていることもある。それを巨大なコンクリートの壁と人造湖で覆い尽くした時代を問い直し、小さな歩みを重ねて水の聖域を蘇らせようとする――すぐれて政治的な映像表現なのに、“自(おの)ずから然(しか)るもの”に対する作り手たちの愛と畏敬が、生命の息吹を呼び込んで、新しい世界へのインスピレーション(吹き込まれる息のような創造的啓発)を誘う映画だ。

水は地球の血液であることを、雨→森→沢→海→雲という水循環が日々、目の前でめぐる屋久島で暮らして学んだ。この作品では、地球の血管である川が滞れば、自然も、その一部である人間も変調をきたすと語っている。

サケが森をつくることを、この映画に登場するダムの多くが立地された北米北西部の原生自然に触れて学んだ。かつては東日本から北海道にかけての森も、川を深く遡上して産卵し、死骸を流域の肥やしにするサケが養ってくれたのだろう。

川が砂浜の補給源であることを、日本で産卵するウミガメの3分の1が上陸する屋久島の浜の危機から学んだ。1970年代に痩せ細った浜は、河口で浚渫した砂の土木工事流用をやめたために後退が止まり、いまなお日本最大のウミガメ産卵地の座を維持している。むしろ日本列島の他の砂浜が、ダムによって堰き止められた川から砂の補給を受けられず、ウミガメの産卵に耐えないほど後退してしまったおかげで、屋久島がかろうじて残っただけかもしれない。

DAMNATION――「ダム(ばかり)の国」と「破滅・天罰・非難」とを掛けたタイトルの巧妙なひねり。そのひねりを解こうという映画の呼びかけに、心から賛同する。

多雨に加えて急峻で狭い国土に人口がひしめく日本では、ダムの必要性に関する評価は米国とは異なるだろう。しかし、正確なデータと情報を共有して開かれた検討を行えば、撤去すべきダム、作らなくていいダムは少なくないはずだ。多くの場合、用水・発電・治水のいずれも、水系を断ち切る大規模なダムや堰堤に頼らない方法があるし、21世紀にはさらに自然共生的な選択肢が増えていくことを期待したい!

映画『ダムネーション』 – DAMNATION